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投稿日:2023.04.12 
更新日:2023.04.27 

食品業界の脱炭素!フードサプライチェーンでの取り組み事例を紹介

フードサプライチェーンでの取り組み事例を紹介
2020年10月、日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」取り組みのことを指しています。ちなみに、「排出を全体としてゼロに」というのは、以下の計算式で、実質的にゼロにするという意味です。

 ”排出を全体としてゼロ”の計算式
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量-植林・森林管理などによる吸収量=排出量ゼロ

参照:脱炭素ポータル

そして、2050年カーボンニュートラルの実現には、フードサプライチェーン全体を通した脱炭素化の実践が重要とされており、食品業界でもさまざまな取り組みが実施されています。そこで当記事では、食品業界とカーボンニュートラルの関係性や、2050年カーボンニュートラルを実現するために実践されている企業の取り組みをご紹介します。

フードサプライチェーンとは
フードサプライチェーンとは、農林水産物を生産し、食品加工、流通、販売により消費者に食品が届き、最終的に廃棄されるまでの一連の流れを指します。食料・農林水産業において脱炭素化を実現するためには、フードサプライチェーン全体で関係者が連携し、気候関連リスクを他人事ではなく自分事として認識し、課題解決に互いに取り組むことが重要です。
引用:農林水産省資料より

食品業とカーボンニュートラルの関係性

「2050年カーボンニュートラル」の達成を目指すうえで、食品業界での取り組みが非常に重要とされています。地球温暖化の大きな原因となる温室効果ガスについては、なんとその8~10%が食品ロスが排出源になっていると、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)により調査結果が公表されています。実は、食品ロスと温室効果ガスの排出は密接に関係しています。食品ロスにより廃棄処分となる食品を焼却する際には多くの二酸化炭素が発生します。埋立処分をする場合にも、発酵によるメタンガスが発生します。そして、世界中で排出される温室効果ガスの「8~10%」という数値は、自動車が排出する量と同レベルですので、食品業界でのカーボンニュートラルの取り組みが重要視されている理由が良く分かる数値です。

さらに、食料の生産・加工・流通・調理・消費など、一連の活動を含むフードサプライチェーンにおいて排出される温室効果ガスについては、世界で排出される人為的な温室効果ガスの『21~37%』を占めているというデータも存在します。つまり、カーボンニュートラルを実現するためには、フードサプライチェーン全体での取り組みが必要と言えます。

参照:環境省「サステナブルな食に関する環境省の取組についてP.14」より

脱炭素経営の評価を行う制度が創設されている

「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、日本では以下のような制度が作られています。

J-クレジット制度

J-クレジット制度
引用:農林水産省資料より

J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2などの排出削減量や、適切な森林管理によるCO2などの吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。
この制度により創出されたクレジットは、国内の法制度への報告、海外イニシアチブへの報告、企業の自主的な取組みなど、様々な用途に活用できます。J-クレジット制度には、創出者と購入者に以下のようなメリットがあります。

クレジット創出者のメリット

  • 省エネ設備導入や再生可能エネルギー活用によるランニングコストの低減効果
  • クレジット売却益による投資費用の回収や更なる省エネ投資への活用
  • 温暖化対策に積極的な企業、団体としてのPR効果
  • J-クレジット制度に関わる企業や自治体などとの関係強化

クレジット購入者のメリット

  • ESG投資が拡大する中、森林保全活動の後押しなど、環境貢献企業などとしてのPR効果
  • 温対法の「調整後温室効果ガス排出量」の報告や、CDP質問書及びRE100達成のための報告(再エネ電力由来のクレジットに限る)などでの活用
  • 製品・サービスにかかるCO2排出量をオフセットすることによる、差別化・ブランディング
  • 関係企業や地方公共団体との新たなネットワークを活用したビジネス機会の獲得や新たなビジネスモデルの創出経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成での活用

> J-クレジットのすすめ

カーボンフットプリント制度

カーボンフットプリント制度
引用:農林水産省資料より

カーボンフットプリント(CFP)とは、商品やサービスがその一生のうちに排出する温室効果ガスを二酸化炭素(CO2) 換算で算定し、商品やサービスにわかりやすく表示することで、「見える化」する仕組みです。エコマークやエコリーフなどのCFPマークを商品に付与することができます。

> カーボンフットプリント制度について

カーボンニュートラル実現の取り組み

それでは、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、食品業界で進められている実際の取り組みについてご紹介します。

森永乳業株式会社の取り組み

森永乳業株式会社では、原材料の調達から消費、廃棄まで、フードサプライチェーン全体において、環境に与える悪影響を最小化させ、環境に優しい商品の開発、製造を実施すると宣言しています。公式サイト内では、2030年までの目標として、CO₂排出量削減率『38%(13年度比)』を公表しています。具体的な取り組みとしては、以下のような対策を行っているようです。

  • 酪農での取り組み
    二酸化炭素に次いで温暖化に大きな影響を与えるメタンについて、メタン排出量削減の取り組みを行っています。例えば、バイオガスプラントの導入です。排泄物などから発生するメタンを回収し、それを発電に用いる対策が行われています。バイオガスプラントを有効活用することで、牧場で排出されるメタンの排出量について、最大30%削減することを目指しています。
  • 事業所での取り組み
    バイオマス熱の利用やグリーン電力の活用、グリーン電力証書の購入などの対策が行われています。例えば、コーヒー飲料やヨーグルトなどの生産プロセスから発生する様々な残渣をメタン発酵でガス化させ、ボイラーの燃料に使用しています。また、メタン発酵設備の発酵温度の維持にも、排熱を利用するなど、一連の取り組みにより、年間約1,000トン相当のCO₂排出量削減効果を実現しているとのことです。
  • 物流での取り組み
    トラックから鉄道や海上輸送に切り替えるモーダルシフトを推進しており、東京ー福岡間の常温輸送でCO₂排出量を77%削減、仙台工場から大阪への常温輸送でCO₂排出量84.2%削減を実現しています。この他にも、パレット積載効率の改善に取り組み、輸送におけるCO₂排出量を56%削減しています。

森永乳業株式会社では、上記以外にもさまざまな取り組みを行っています。詳しくは、公式サイトでご確認ください。

> 森永乳業株式会社公式サイト

ネスレ

ネスレ日本株式会は、2020年に「2050年までにCO2排出実質ゼロ」という目標をかかげ、ロードマップなどを発表しています。その中でも特に注目されている取り組みに『リジェネラティブ農業』というものがあります。

リジェネラティブ農業は、「環境再生型農業」とも呼ばれており、農地の土壌を修復・改善しながら自然環境の回復につなげる農業を指します。具体的な手法は、「不耕起栽培(農地を耕さずに作物を栽培する方法)」や「輪作(同一耕地に異なる種類の作物を交代に繰り返し栽培する方法)」、「合成肥料不使用」があげられます。さまざまな研究によると、本来、土壌はCO2を吸収する効果を持っているとされています。しかし、土壌が破壊された場合、このCO2吸収効果がなくなります。また、農地を耕した時には、地中に酸素が取り込まれ、植物の光合成により、土壌に固定していた炭素と結びつき、CO2が大気中に放出されます。
リジェネラティブ農業は、農地の土壌を修復・改善しながら作物の栽培を行う方法ですので、より多くのCO2を土壌に吸収してもらうことができます。さらに、不耕起栽培を行えば、土壌から放出されるCO2を削減する効果も得られます。アメリカのロデール研究所によると、世界中の50億ヘクタールの農地について、リジェネラティブ農業を適用した場合、20年間で約150億トンの炭素を削減することが可能と発表されているそうです。

ネスレでは、「2025年までに主要な原材料の20%を再生農業により調達し、2030年までに50%を再生農業により調達する」ことを目標としています。

> ネスレ「再生農業」

まとめ

今回は、2050年カーボンニュートラルに向けて、食品業界での取り組みがなぜ重要なのか、またどのような取り組みが行われているのかを解説しました。

この記事でご紹介したように、食料の生産・加工・流通・調理・消費など、一連の活動を含むフードサプライチェーンにおいて排出される温室効果ガスは、世界で排出される人為的な温室効果ガスの『21~37%』を占めているとされ、カーボンニュートラル実現のためには、食品業界の取り組みが必要不可欠です。そのため、政府が「2050年カーボンニュートラル」の宣言を行った2020年には、多くの食品関連企業が自社の目標やそれを実現するためのロードマップを公表しています。

フードサプライチェーンに関わる企業の努力に加え、一人一人の意識や取り組みも重要と考え、まずは個人で取り組める食品ロスを減らす方法を見直すきっかけになれば幸いです。

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この記事を書いた人

sande

安藤 知広

FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長

1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。